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千葉地方裁判所 昭和35年(ワ)193号 判決 1961年1月30日

原告 千葉商工信用組合

被告 半場辰雄

主文

一、被告は、原告に対し、金二〇万円及び之に対する昭和三〇年八月一日からその支払済に至るまでの金百円について一日金七銭の割合による金員を支払はなければならない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、本判決は、原告に於て、金五万円の担保を供するときは、仮に、之を執行することができる。

事実

原告は、

主文第一、二項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は、訴外元吉正夫に対し、

(イ)、昭和三〇年三月一二日、金一〇万円を、弁済期同年五月一〇日、利息金百円について一日金五銭、遅延損害金金百円について一日金七銭の各割合なる約定で、

(ロ)、昭和三〇年三月二三日、金一〇万円を、弁済期同年五月二一日、利息並に遅延損害金右(イ)と同様の割合なる約定で、

各貸付けた。

二、而して、被告は、訴外土肥正明と共に、右各貸付を為した日に、右各債務について、夫々、連帯保証を為した。

三、然るに、前記訴外人は、弁済期が到来しても、右各債務の元本並に昭和三〇年八月一日以降の損害金の支払を為さないで居るので、連帯保証人である被告に対し、右貸付元金合計金二〇万円及び之に対する昭和三〇年八月一日からその支払済に至るまでの金百円について一日金七銭の割合による損害金の支払を命ずる判決を求める。

と述べ、

被告は、

原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として、

訴外元吉正夫が、原告から、その主張の各金員を借受けたことは、之を否認する。右各金員は、訴外房総飼料蓄産株式会社が之を借受けたものである。仮に、右訴外元吉正夫が之を借受けたものであるとしても、被告に於て、その各債務について、連帯保証を為したことは、之を否認する。

と述べ、

証拠として、原告は、甲第一、二号証を提出し、証人元吉正夫、土肥正明の各証言並に被告本人尋問の結果を援用し、被告は、甲号各証は、孰れも、その成立を否認すると答へた。

理由

一、原告が、訴外元吉正夫に対し、原告主張の各日に、その主張の各約定で、その主張の各金員を貸付けたことは、証人元吉正夫の証言と之によつて右訴外人関係部分の成立を認め得る甲第一、二号証とを綜合して、之を肯認することが出来る。

二、而して、右証人の証言並に証人土肥正明の証言と右甲第一、二号証の各存在並にその記載とを綜合すると、右貸付が為された当時、被告は、訴外房総肥料蓄産株式会社の代表取締役、訴外元吉正夫は、その専務取締役であつて、会社の業務は、専ら、右訴外人に於て、之を担当し、同訴外人に於て、その運営を為して居たものであるところ、右会社は、その頃、その運営資金に窮して居た為め、業務担任の取締役であつた右訴外人は、その資金獲得の手段として、自己の名に於て、資金の借入を為し、之をその運営資金に充てようと思い立ち、その頃、原告に対し、自己の名で、資金借入方の申入を為して、前記各金員の借入を為すに至つたものであること、而して、右借入を為すについては、二名の連帯保証人を必要としたので、代表取締役である被告と知人である訴外土肥正明の両名にそれを依頼することにしたのであるが、被告の住所は、会社から若干の距離にあつて、而も、被告は、殆んど会社には出勤して来て居なかつたので、被告には後日、その了解を得ることにして、前記各借受を為した日頃に、夫々、会社の事務員をして、甲第一、二号証(孰れも、約束手形)に、夫々、所定の記載を為さしめ、且、その各振出人欄に、その各振出人として、右訴外人及び被告並に右訴外土肥正明の氏名を記載せしめ、更に、右訴外人の名下には、自己の印を、被告の名下には、会社備付の被告の印を、自ら押捺した上、その都度、右訴外土肥正明に対し、右借入に際しての連帯保証人となることの依頼を為して、その承諾を得ると共に、右各手形を示して、その各名下に、その押印を受けて、夫々、之を完成手形と為した上、右各借入を為すに際し、その都度、原告に対し、右両者が右各借入金債務について、連帯保証を為した旨を申入れ、その証拠として、その都度、右各手形を原告に差入れ、連帯保証人二名あるものとして、前記各借入を為したものであること、而して、右借入金は、その借入後、孰れも、直ちに、会社の運営資金に充当したこと、而して、その後、被告に対し、右各借入を為して、その借入金を会社の運営資金に充当したこと、及び右各借入を為すに際し、その都度、被告をその連帯保証人の一人となしたことを伝へて、その了解を求めたところ、被告は、異議なく、之を了承し、その後、そのことについて、何等の紛争もなかつたこと、

を認定することが出来る。

右認定に反する被告本人の供述は、措信し難く、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

三、右認定の事実によつて、之を観ると、前記訴外人が、前記各借人を為すに際し、その都度、被告をその連帯保証人の一人となした行為は、右訴外人が自己に於て、被告の名を以て、被告がその各連帯保証人の一人となる旨の意思を作出し、之を、その都度、原告に伝達したものであつて、被告を代理して、その意思を表示したものではないから、それは、孰れも、所謂無権代理行為ではなく、他人の名に於て為した意思表示とその伝達行為とを包含するものであると解するのが相当である。従つて、その名義人たる本人は、その為された意思表示を無権代理行為として追認(相手方に対する意思表示によつて為されるところの追認)することは、之を為し得ないが、その意思表示を為した者に対し、その意思表示を自己の意思表示として承認し、その意思表示の効果を自己に帰属せしめることは、之を為し得るものと解するのが相当であると解せられるものであるところ、(これは、他人の名に於て為した行為は、その行為を為した者の行為であつて、その名義人の行為ではないのであるから、その名義人の承認があることなどの特段の事情のない限り、その効果は、その名義人に及ばないと解するのが相当であると解されるからである)、被告は、事後に於て、右訴外人の為した右行為を承認したのであるから、それは、右訴外人が被告の名に於て、作出した前記各意思表示を、被告自らが為した意思表示として、承認したものであると解するのが相当であると認める。而して、この承認があれば、その意思表示の効果は、当然に、その名義人に帰属するに至るものであると解し得られるから、前記訴外人が被告の名を以て為した被告が前記各債務についてその連帯保証人の一人となる旨の各意思表示は、孰れも、被告の為した右承認によつて、被告に対し、その効果を生じて居るものであると云はなければならない。従つて、被告は、右訴外人の原告に対する前記各債務について、その各連帯保証債務を負担して居るものであると云はざるを得ないものである。

四、而して、主たる債務者並にその連帯保証人等が、前記各借受元金及び之に対する昭和三〇年八月一日以降の損害金の支払を為して居ないことは、証人元吉正夫の証言と弁論の全趣旨とを綜合して、之を肯定することが出来るから、連帯保証人である被告に対し、右各元金及び之に対する右の日以降の約定による金百円について一日金七銭の割合による損害金の支払を命ずる判決を求める原告の本訴請求はは、正当である。

五、依て、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について、同法第一九六条を、各適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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